戸建相続で取得した市街化調整区域の分家住宅を売却したい!(茨城県取手市)
ご相談者: | T.Y 様(インターネットからのお問い合わせ) 神奈川県川崎市高津区 |
昨年父親が他界し、実家を相続しました。
実家は、茨城県取手市にあります。
大手不動産会社、地元不動産会社の合計10社以上に売却の相談をしましたが、実家が市街化調整区域の分家住宅であること、道路にでるまでに親戚が所有している土地を通らなければならないこと、親戚の土地の使用許可がないと建て替えができないことなどから、ご相談した全ての不動産会社より「売れない」と言われてしまいました。
そんな中、インターネットで御社のホームページを拝見し、ご相談に伺いました。
なんとか分家住宅の売却を手伝っていただけないでしょうか。
※「市街化調整区域」とは、市街化を抑制する地域で原則として建物の新築はできません。
※「分家住宅」は農家の方が特別な許可を取得し、建物を建築したもので許可を受けた方等に
居住できる方が限定される住宅のことを言います。分家住宅を使うためには都市計画法の許可が
必要となります。
状況
・相続登記が未了
・駅からは比較的近い位置に所在
・建物は築20年弱経過しており、かなり老朽化が進んでいる
・市街化調整区域内に存し、もともと分家住宅として建築
・公道に出るまでに第三者所有地を通らなければ出入りできない
※特に書面の締結はされていませんでした
・目の前の通路に駐車場を無断で設置されている状態
・大手不動産会社、地元不動産会社10社以上に売れないと
言われた
・境界標が一部不明
解決策
1. お客様との打ち合わせ
お客様よりご相談をいただき、後日、ご来店いただくことになりました。
お客様からは、「市街化調整区域の分家住宅を相続した。売却しようと他の不動産会社に多数相談しましたが、全て売れない、対応できないと言われてしまい困っている。タダでもいいから何とか手放したい」旨のお話をいただきました。
そして、お会いした際にお客様がお持ちの資料全ての写しをいただきました。
お話をお聞きすれば、するほど確かに難しい案件ということがよくわかりました。
当初ご相談いただいたときは、登記名義人がまだ亡くなったお父様となっていたため(相続登記が未了でした)、売主様名義に相続登記をしていただいくようお話しいたしました。
ただ、困っているお客様をそのままにできない私は、お客様の相続登記が完了した後、すぐにお仕事をお引き受けさせていただきました。
2. いろいろでてくる物件調査
お仕事のご依頼をいただき、すぐに市役所等で物件の調査。
すると確かに物件は、市街化調整区域の分家住宅でした。
分家住宅を第三者の方が使うためには都市計画法の許可が必要となり、この許可取得にはかなり大変な作業が伴います。
また、許可がおりるためには売主様の売却事情、買主様が分家住宅を購入する理由など事細かに審査されます。
この審査を通過し、無事に許可を取得できた買主様が初めて分家住宅を使うことができるのです。
もともとは隣のお宅、今回の相談地、目の前の第三者所有の通路もすべては1筆の土地でした。
それが相続になり、今回のように近隣の方同士権利関係に問題が生じるようになってしまったのです。
現在の建物は、この第三者所有の通路部分を建築敷地として利用し、建築されたものでした。
また、この第三者所有の通路は、登記簿上「農地」となっていたため、権利の移転・設定には「農地法」の許可が必要でした。
それに加え、この通路を通行しないと公道には出られないことも問題の1つでした。
農地法の許可取得は、農業委員会と協議する必要があり、いろいろと細かい条件をつけられることも多く、難航してしまいます。
ただ幸いなことに前面の通路は第三者と言っても売主様のご親戚の方の所有で、売主様もそのご親戚の方とまめにご連絡をとられている様子でした。
3. 現地調査でわかったこと
市役所等での法令上の制限を調査した後は、現地確認をしました。
建物は空家でしたが、やはり経年変化のため、ところどころに老朽化が見受けられました。
それでも建物は5LDKの126㎡もあり、リフォームさえすればまだまだ使えそうな建物でした。
敷地外回りは、市街化調整区域だけあって周辺には緑が多く、静かな環境でした。
特に目の前は畑となっていたため、日当たりも良好。
境界標を探すと一部の境界標が不明でした。
また、第三者所有の通路部分には、売主様のお父様が設置されて屋根付きの車庫が設置されていました。
4. 売却前の下準備の徹底(境界標の設置)
前述の通り、今回の物件の売却には「都市計画法の許可」(分家住宅のため)と「農地法の許可」(通路の通行権を発生させるために)が必要でした。
そして、その許可のどちらか1つでも取得できなければ売却は困難なものとなってしまう物件でした。
そのため、売却活動を開始する前に下準備から始めたのです。
その下準備のまず1つは、境界標の設置、つまりは測量です。
土地家屋調査士の先生に全ての境界標を確認していただき、境界標がないところには新規に設置していただきました。
そして、前面通路が農地になっていることについて、通路部分所有者の協力のもと、宅地として使用しているので農地ではないという「非農地証明書」を取得しました。
この非農地証明を土地家屋調査士の先生に渡し、農地を「宅地」に地目変更登記をしていただきました。
5. 売却前の下準備の徹底(通路所有者との協議)
前面通路所有者の協力のもと、農地を宅地に変更することができ、これで通行権の設定ができるようになりました。
まずは、通路所有者より通路の通行・掘削の承諾書を取得し、「今後、買主様が見つかった時点で合意書というものを再度締結したい、それに伴い、今まで無償で使用していた通路の使用料をお支払いしたい」とお伝えさせていただきました。
これについては、実は通路所有者も今まで長年通路を無償で使用されていたことについてよくは思っていなかったようでしたが、今回、有償とさせていただくことでとても協力的に動いていただくことができました。
6. 売却前の下準備の徹底(都市計画法の許可の事前協議)
そして、すぐに販売を開始したいところでしたが、今回の物件のもう1つのポイント、それは物件が「分家住宅のため、買主様がその建物を使用できるようにするためには都市計画法の許可が必要」ということでした。
都市計画法の許認可自体は、行政書士の先生の業務のため、信頼できる行政書士の先生を探し出し、事前にどのような買主様であれば、都市計画法の許可を取得できるか、市役所担当者と協議をしていただきました。
そして、買主様が決まり次第、すぐに都市計画法の許可申請をできる準備を整えておきました。
都市計画法の許認可の事前協議の段階で市役所の担当者より「違法に設置した車庫を撤去しないと都市計画法の許可はだせない」旨の指導を受けてしまったため、売主様にその車庫部分を撤去いただきました。
このとき、都市計画法の許可申請に伴い、今ある建物の詳細図面(設計図書等)の提出が必要となり、建築士の方にその詳細図面の作成を依頼をしました。
7. いざ、売却活動開始
売却活動のための下準備が整った段階で実際に売却を開始しました。
分家住宅という特殊な物件でしたが、売主様の大切な想い出がたくさんつまった不動産、まずは、売主様のご希望金額より販売をスタートしました。
土地と建物が広く、駅にも比較的近かったため、多数のお問い合わせをいただいたものの、都市計画法の許可を取得できそうな買主様はほとんどいませんでした。(購入できる方はいませんでした)
販売活動期間中は、多くの不動産会社より「分家住宅って何ですか?」というご質問も受け、何回その説明をしたかわからないほどでした。
また、当社は会社が横浜のため、物件のある茨城県取手市に何度も足を運ぶことは現実的に難しかったため、地元の不動産会社の方にご協力いただき、私が集客をし、地元の不動産会社がお客様を現地にご案内する、とそれぞれ協力しながら売却活動を進めていきました。
8. 購入申込書の取得と購入条件
お客様・他社さんからのお問い合わせ・各種サイトのアクセス件数からも売主様のご希望金額での販売ではご成約が難しいと思われたため、販売価格を変更(下げて)していただきました。
するとあっという間に都市計画法の許可の取得ができそうな購入希望者(近くにお嬢様がお住いのお客様)をお探しすることができたのです。
ただ、「前面通路が第三者所有だったため、将来にわたり、通路の通行が担保できるようにしてほしい(将来、通路を通らせないなんて言われないかという不安からも)、それが成就できるようでしたら、ぜひ、購入させていただきたい」というお話をいただきました。
9. 売買契約の締結と将来にわたり通行の担保
今回の物件は、様々な課題が山積していたため、条件が成就したら、お引渡しをしましょう、条件が1つでも成就できなかった場合には契約は白紙解約となる内容にて売主様、買主様ご契約いただきました。
契約締結後にまず行ったこと、それは行政書士の先生に買主様が今回の分家住宅に住むための都市計画法の許認可申請でした。
そして、都市計画法の許可申請より1ヶ月弱ですぐに「正式な都市計画法の許可」を取得することができました。
これは事前の協議をしっかりと行っていたため、何の問題も起こることなく、手続きができたためでした。
続いては、売主様のご親戚が所有している通路を買主様が将来にわたって利用等できるようにするために公正証書を作成しました。
その公正証書のポイントは、通路部分を買主様が通行(車含む)すること、掘削すること、買主様・通路部分所有者ともに通路に駐車をしないこと、買主様は通路使用料を毎月支払うこと、買主様が建物を建替え等する際には通路部分を建築敷地として利用すること等でした。
そして、この公正証書を作成するのと同時に通路部分について地役権を設定(登記)しました。
この地役権があれば、将来、通路部分が第三者所有となっても、通行等について、問題が起きることはありません。
これで通路部分に対する買主様の不安を払拭することができたのです。
10. お引渡しと通路所有者のご紹介
契約条件が全て成就したところでお引渡しに向けて準備を開始しました。
お引渡しの際には、通路部分所有者の方にもいらしていただき、買主様を直接ご紹介させていただきました。
そして、使用料のお支払い方法を協議をし、通路部分所有者、買主様それぞれどういった方かというご心配もなくなり、お互いにとても安心されたご様子でした。
それに続き、所有権移転のための書類の署名・押印を済ませ、残代金の授受という流れで進んでいきました。
最終的には何1つ滞ることなく、無事にお引渡しを終えることができました。
帰りがけに買主様と買主様のお嬢様は売主様に、「大切な不動産をお譲りいただき、本当にありがとうございました。これから大事に使わせていただきます」と。
かなり大変な案件だけだったために、私の心にも買主様の言葉がストレートに響いてきました。
担当者からの一言
今回の案件のポイントは、「分家住宅の売却」でした。
残念なことに不動産業界では「分家住宅の取り扱いをしたことがない、そもそも分家住宅という言葉を知らない方」がほとんどです。
そのため、当初売主様がご相談された不動産会社の担当者は、この分家住宅に「売れない」というレッテルを貼ってしまいました。(単に自分が知らない、扱えないだけなのに)
ですが、分家住宅や通路のこと、ご近所関係さえ良好な関係であれば、そんなことは何とかなるんです。
現に今回の案件は山積していた課題を全て解決できました。
売主様が良好なご近所関係を構築されていたこと、これも今回の案件における重要な要素でした。
これは不動産会社の営業マンが「知っているかどうか」と「やってみる(取り組んでみる)かどうか」だと思います。
これからはどの不動産会社に依頼するか、誰に依頼するかをお客様がしっかりと選ぶ時代になっていきます。
売主様が「タダでもいいから手放したい」と言い、他社さんが「売れない(0円)」と言っていた物件を私は400万円以上の金額で売却することができました。
そして、これがノウハウだと思います。
お金以上に売主様が長年生活をし、たくさんの想い出がつまったご実家をとっても気に入って下さった買主様にお譲りいただくことが出来て本当に良かったと思いました。
お引渡しのときに売主様、買主様は最高の笑顔でした。
今回はいつになくたくさんの関係者の方のお力添えをいただきました。
土地家屋調査士の先生、行政書士の先生、建築士の先生、司法書士の先生、公証人役場の先生、地元の不動産会社の方など本当にありがとうございました。