土地建物が建てられない市街化調整区域の農地を手放したい!(愛媛県今治市)
ご相談者: | T.N 様(インターネットからのお問い合わせ) 横浜市金沢区 |
4年前に父が他界し、父が所有していた愛媛県にある農地を相続しました。
その農地は叔母と持分2分の1ずつの共有となっており、なぜか固定資産税が毎年128,000円もかかっていました。
本来であれば叔母と固定資産税を折半するのですが、今まで全て私のほうで負担してきました。
ただ、それも限界にきています。
そこで売却を考え、数多くの不動産会社に相談しましたが、市街化調整区域の農振農用地のため、建物の新築ができないこと、近くの鶏舎の臭いがきついことを理由に全ての不動産会社から「売れない」と言われてしまった。
もうこれ以上、固定資産税を支払うことができません。
助けてください!
状況
・駅からバス便の高台にあるアパート
・土地面積631㎡
・境界標が不明
・第三者が使用していた形跡あり
・市街化調整区域の農用地のため、建築不可
・毎年128,000円の固定資産税がかかる
・叔母様の住所変更登記が未了
解決策
1. お客様との打ち合わせ
今回のお客様は、インターネットからのお問い合わせでした。
数回メールでのやり取りをした後、当社にご来店いただきました。
その時、お客様より4年前にお父様が他界され、叔母様と共有の建物が建てられない固定資産税が128,000円の市街化調整区域にある農地を相続したこと、これ以上固定資産税が支払えないこと、複数の不動産会社から「売れない土地」と言われてしまったこと、タダでもいいからとにかく早く手放したいこと、当社以外頼れる不動産会社がいないとのことをお聞きしました。
そのため、当社にて売却活動をお引受けさせていただくことにしました。
売却活動に入る前に共有者である叔母様にも売却の意思確認をし、売却に向けての準備を開始したのです。
2. 現地に赴き、役所調査
後日、スケジュール調整をし、朝一番の飛行機でいざ、愛媛県今治市へ。
今治市に到着すると市役所、土木事務所などをまわり法令上の制限などを調査。
その結果、お客様からお聞きした通り、今回の売却物件が原則として建物の建築ができない市街化調整区域にある他の用途への転用ができない農用地であることが判明。(建築不可物件)
これについては、お客様の祖父が購入されたときは市街化調整区域に指定されていなかったため、その時であれば建物の建築はできたのですが、お客様の祖父・お父様が建物の新築をせずに放置されてしまった結果、建物が建てられない農地が出来上がってしまったのです…。
また、農用地であるにもかかわらず、年間の固定資産税が128,000円もしている理由について、市役所 固定資産税課に問い合わせをしたところ、その農地は、お客様の祖父が50年前にご購入されており、その際に農地法の5条許可を取得していたため、その時点から現在と同等の「宅地並み課税」の固定資産税がかかっていたのです。
※宅地並み課税の土地は、建物を建築すれば軽減措置が受けられますが、更地の場合、高額な固定資産税となってしまいます
また、叔母様の登記簿のご住所と現在のご住所が相違していたため、叔母様に法務局で住所変更登記をしていただくようお願いしました。
3. 現地調査及び隣地訪問
役所での調査を終え、現地に向かいました。
現地は隣に農家の方の住宅があり、道路向かいには鶏舎がありました。
前面道路は広く、見渡す限り農地が広がっていました。
ただ、お客様から事前にお聞きしていた通り、鶏舎の臭いがきつく、住むのは非常に難しい状態でした。
車で現地に向かった私ですが、車の出入りのためにドアの開閉をした一瞬の隙にハエが何匹も車内に入ってきてしまうくらいの状況でした。
現地に境界標はなく、過去に誰かが使用していた形跡がありました。
そして、写真を撮影し、周囲の長さを計測。
現地調査を終えるとすぐに隣の農家の方を訪問し、「これからこの農地を売却します」と。
すると玄関先に迎え入れていただき、地域的なこと、農地のこと、今までの経緯などをお聞きすることができました。
いろいろとお話をした結果、自宅の隣の農地のため、条件が整うのであれば、購入も検討するという流れになりました。
この時は、詳細はまた横浜に戻ってから資料をお送りし、再度打ち合わせをしましょうとお伝えしました。
今回の売却物件の隣にはなぜが第三者所有の183㎡の家庭菜園的に利用されている農地がありました。
売却物件を誰が管理していているのか、誰が以前使用されていたのかわからなかったため、その隣の農地の所有者を調べ、その方のご自宅を訪問しました。
すると偶然にも隣の農地所有者はご在宅されており、いろいろとお話をさせていただきました。
すでにお仕事を定年されているご年配のその方が今まで今回の売却物件の草刈りなどをしていただけていたそうで、家庭菜園として使用している農地については固定資産税が48,000円と高く、今後子ども達には残せないから何とか手放したいが売れない…、できれば、売却物件と一緒に売却できないかとのお話をいただいたのです。
家庭菜園の所有者の方は、50年目に自宅を建築される予定で農地をご購入されたそうですが、結局そこに建物の建築はせずに現在の状態になってしまってしまいました。
なお、隣の農地所有者の方はこの「高い固定資産税」について市役所の固定資産税課の方と過去に「固定資産税を下げてほしい」旨協議をしていたそうですが、最終的に減額されなかったそうです。
4. 地元専門家を訪問
市街化調整区域の農地の売買に際しては、農地法の許可が必要となります。
そのため、地元の行政書士の先生にお電話し、訪問。
その理由は、売買契約となるときに農地法の許可申請をお願いするためです。
地元の行政書士の先生にお願いすれば、ローカルルールがあったとしてもご対応いただけるからです。
また、隣地との境界標もなかったため、地元の土地家屋調査士の先生も訪問し、ご挨拶しました、「何かの時にはお願いします」と。
行政書士の先生、土地家屋調査士の先生双方にお願いしたのは「この農地を貰ってもいいという方がいれば教えてください」、というものでした。
5. 会社に戻り、隣地との具体的な協議を開始
出張を終え、横浜にある会社に戻ると調査結果などを売主様にご報告。
売主様からは当初から変わらず、「とにかくタダでもいいから手放したい。手放す方法については、全て田中さんにお任せします」というお話をいただきました。
そして、売却物件の購入について前向きにご検討いただけそうな隣地の方に資金計画表と共に一見書類を送付。
その後、再三再四にわたり、電話での協議を重ねました。
最終的に隣地農家の方のご子息様にて購入していただくことで合意。
以前お会いした行政書士の先生に依頼し、農地法の許可申請の手続きをお願いしました。
ところが数日後、行政書士の先生からは「今回の買主様は農地法の許可がおりません。理由は、所有している農地の中で農業委員会に許可を得ずに無断転用してしまった農地があるからです。それを元の農地に戻さないと許可が下りません」という連絡が入りました。
隣地農家の方にその旨お話をしたところ、その部分の是正をするためには多額の資金がかかってしまう、それであれば購入は難しいと断念されてしまいました…。
もう少しで売却できるところまでいったのですが、農地の売買は何があるかわかりません。
6. 売却に向けてのアプローチの継続
隣地農家の方への売却を断念し、再び、紹介活動を開始。
この時、私は第三者のご紹介はもちろん、隣地農家の方にダメもとでアプローチを継続していました。
それは、今回の売却物件である農地を購入できるのは「農家または農業法人」のため、隣地農家の方は農家の方とのネットワークがあり、それを使わない手はないからです。
隣地農家の方にお願いしたのは、「お知り合いの農家の方でこの農地をお引受けいただける方はいませんか」というものでした。
隣地農家の方からは「ちょっと考えてみます」というご返事をいただき、数日後、「一人いい方がいます」とご連絡をいただくことができました。
実際に動いた結果が功を奏したかたちとなりました。
7. ご紹介いただいた方との協議
隣地農家の方からお聞きした方にお電話でご連絡をし、事情をご説明。
すると詳しい資料が欲しい、引き受けるための費用を教えてほしいなど具体的なお話をいただくことができました。
私はその資料を準備、回答すると数日後にその方から「引き受けてもいい」旨のご連絡をいただけました。
さらにお引き受けいただくのはタダではなく、100万円超となる金額でのご購入であるうえに、今回の売却物件の隣の家庭菜園部分も一括でご購入いただけるとのことで売主様、家庭菜園の所有者の方にとってこの上ない条件でした。
8. 契約に向けての準備、農地の許可申請、引渡し
購入者が決まったことを売主様、家庭菜園の所有者の方にご報告。
すると、両者は大喜び。
契約に向けての準備に入りました。
今回の農地法の許可申請については、買主様の指定の行政書士の先生にお願いしました。
すると許可申請をして1ヶ月、今回は問題なく農地法の第3条許可が無事におりてきました。
そして、売買契約の段取りに入りました。
私が作成した契約書類を売主様、家庭菜園の所有者の方、買主様に送付し、事前にご確認いただきました。
その後、売主様(ご相談者様)に当社にご来店いただき、契約書類に署名・押印いただき、後日、私が再度今治市に出張しました。
買主様がご利用される金融機関に売主様(叔母様)、買主様、家庭菜園の所有者の方、司法書士の先生、私が集まり、契約書類の署名・押印をした後、売買代金の授受、所有権移転の手続きを行いました。
そして、全ての手続きを完了することができたのです。
売主様は「固定資産税の呪縛から解放された」、家庭菜園の所有者の方は「子どもにこの売れない農地を残さなくてすんだ。田中さんとお会いできて本当に良かった」旨のお話をいただくことができました。
担当者からの一言
今回の案件のポイントは「農地の売却は農家に聞け」でした。
今回の売却物件は、市街化調整区域にある農地でした。
市街化調整区域の農地は、農地法という厳しい法律の許可が必要なため、売却がとても大変です。
購入できるのは、農家の方か農業法人しかいないのですから。
そういった農地をいままで数多く売却してきていた私が思うことは、購入できる方が農家の方か農業法人しかいないのであれば、そのネットワークをうまう使うことです。
今回のように隣地農家の方が購入できない場合でも、その方から他の農家の方をご紹介いただくことはできます。
そうして、農地をご購入していただける農家の方を探していくのです。
地道なことで、大変なことですが、それをするかしないかで売却できる確率が大幅に変わります。
また、みなさんの中で都市計画区域外や未線引き区域の農地を将来、建物建築用に取得されている方がいらっしゃいましたら、建物を新築しないと今回のように先々固定資産税が宅地並み課税となる可能性があることを心得ておいてください。
そして、今回も「相場がないところに相場をつくること」に成功しました!
関係者のみなさま、本当にありがとうございました!